チタンとバイオミミクリーの交差点:蛇型水上・水中ロボット開発の舞台裏
海洋探査の性能と、デスクトップを飾るオブジェとしての美しさを両立。多節構造を持つ蛇型ロボットの制作現場に迫る。
朝の光を作業台に捉えると、チタン特有の光沢を放つパーツが、まるで一本の脊椎のように整然と並んでいる。外の港からはカモメの鳴き声が響いてくるが、工房の中に満ちているのは卓上旋盤の静かな作動音と、ステンレスピンがカチリとはまり込む手応えだけだ。
すべてのきっかけは、3年前にパラオで潜ったときに出会ったエラブウミヘビだった。入り組んだサンゴ礁の隙間を、流れを殺さずにすり抜けていく姿に息をのんだ。従来の潜水艇は箱型で動作音が大きく、繊細な水中生態系を荒らしてしまう。求められていたのは、水に対抗するのではなく、水と一体になって泳ぐしなやかさだった。
プロトタイプから耐蝕チタンへの進化
高価な金属削り出しに着手する前、私たちは何ヶ月もフィラメントを消費し試作を重ねた。連日深夜までFDM printingを動かし、関節のクリアランスや体のうねり具合を検証。形状の全体像を確かめるにはタフPLA素材で十分だったが、精密な内部ギアハウジングの検証には精度が足りなかった。
そこで微細パーツの制作には、高精細なresin printプロセスへ切り替えた。寸分の狂いもない解像度のおかげで、スナップフィット構造の試作がわずか数時間で完成。本格的な金属加工へ投資する前に、内部のマイクロ流路の挙動まで正確に検証することができた。
計算通りの動作を確認した段階で、素材をGrade 5チタンへと移行した。各セクションにはブラシレスモーター、ハーモニックドライブ、そして水圧を遮断する二重のマイクロOリングを組み込んでいる。完全なcustom product designを採用しているため、完成品が同じ姿になることはない。先頭部にソナー陣を組み込む研究機関もあれば、海洋研究所のエントランスを飾るキネティック・アートとして注文する顧客もいる。
エンジニアリングとキネティック・アートの融合
仕様上は自律型無人潜水機(AUV)だが、手にとってみると重厚なキネティック・アートの彫刻を抱えている感覚に近い。サンドブラスト仕上げを施したチタンの表面が陽光を拾い、設計図の上に鮮明な幾何学模様の影を落とす。
この多節構造体を水中での滑らかな駆動へ導く要素は以下の通りだ。
- 全方向へのうねりを生み出す24の可動関節機構
- チタン3D printingによる、軽量かつ中空構造の外装シェル
- デュアル4Kカメラと水圧センサーを備えたモジュール式ヘッド構造
- 完全防水を実現するダイレクト磁気カップリング動力伝達
生態系調査のために複雑なサンゴ礁の間をすり抜ける時も、デザインスタジオのウォールナット材スタンドに静置されている時も、本格的なフィールド機材とアート作品の境界を滑らかに消し去っていく。静音性に優れ、緻密であり、実際の深海環境に耐えうる堅牢さを備えている。
FAQ
このウミヘビ型ロボットは実際に海で使用できますか? それとも観賞用モデルですか?
実際の水中運用を想定して設計しています。各チタンセグメントには二重のマイクロOリングと磁気カップリングを採用しており、水深50mまでの水圧に耐えられます。海洋での使用後は、関節部の海水や塩分を真水で洗い流すだけでメンテナンスは完了します。
カスタム設計やセンサーの追加にはどのような選択肢がありますか?
ヘッド部およびテール部のカスタマイズに対応しています。海洋調査の用途に応じて、超音波流速プロファイラ(ADCP)、マルチビームソナー、高解像度カメラ、環境サンプル採取モジュールなどのマウントを個別設計いたします。
チタン加工に移る前のプロトタイプ検証はどのように行われましたか?
まずFDMプリントによるスケールモデルで力学的な挙動を検証し、続いて高精度な光造形プリントで内部ギアの嵌合精度を確認した上で、チタンの金属加工プロセスへとデータを移行しました。
注文から納品までの制作期間はどのくらいですか?
チタンパーツの3Dプリント、CNC切削仕上げ、スタジオでの手作業による精密組み立てを一台ずつ行うため、通常8〜12週間ほど頂戴しております。